コラム
未支給の給付は控除される?
以前の私のコラム「賠償額から控除されるものは何?」では、賠償額から損益相殺される項目について取り上げました。その際、各種社会保険給付については、賠償額から控除されることを紹介しました。
もっとも、社会保険給付に関しては、将来にわたり継続的に給付されることが予定されているものがたくさんあります。それらについては、既払い分だけ控除すればよいのでしょうか。それとも将来分まで控除する必要があるのでしょうか。
この点、最大判平成5年3月24日(民集47巻4号3039頁)は、地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金について、既に支給された分及び支給を受けることが確定した分に限って控除すべきであり、将来の支給未確定分については控除の必要はない旨判示しています。このような扱いは、遺族年金だけでなく、その他の各種社会保険給付についても同様であると考えられます。
具体的なケースにおいてどこまで控除されるかについては、弁護士にご相談ください。
弁護士 田 保 雄 三
交通事故と休業損害(1)
交通事故により怪我をしてしまったために仕事を休まなければならない場合には、加害者に対し「休業損害」(交通事故に遭ったために得ることができなかった収入)を請求することができます。今回のコラムでは、「休業損害」について解説します。
・休業損害の算定方法
原則として「収入日額×休業日数」の計算式で算定されます。
・1日あたりの収入額
収入日額は、被害者の方の職業(サラリーマン、自営業者、主婦など)によって異なります(この点は、次回以降のコラムで、被害者の方の職業ごとに取り上げます)。自賠責保険の計算では、原則として「日額5,700円」で算定されます)。症状に応じて、減額される場合もあります。
・休業日数(休業の必要性)
休業したすべての日数について休業損害が請求できるわけではなく、「交通事故の傷病が原因となって休業が必要な日数」に限定して休業損害が請求できます。仕事の内容、症状の程度、医師の診断内容などの事情から、休業が必要であったかどうかが判断されます。傷病の「症状固定日」までの休業分が対象となります。
・死亡事故と休業損害
死亡事故の場合でも、交通事故の発生から被害者の方がお亡くなりになるまでの期間に休業した日数については、休業損害の対象となる余地があります。
交通事故により仕事ができなくなり無収入となってしまう方もいます。交通事故の損害賠償にあたり、休業損害が適切に支払われるかは非常に重要な問題です。休業損害について、保険会社の対応に疑問を感じる方は、弁護士にご相談されることをお勧めします。
弁護士 藏田貴之
死亡慰謝料の増額(4)
今回は、「独身の男女」が死亡されたケースの「死亡慰謝料の増額」をテーマに取り上げます。
なお、被害者が「独身の男女」である場合の死亡慰謝料の標準額は一般に2000万円~2500万円とされています(死亡慰謝料の増額事由については、「死亡慰謝料の増額(1)~(3)」も併せてご覧下さい。)。
① 東京地裁平成15年5月12日判決・交民36巻3号697頁
19歳・男子大学生の男性が被害者となった死亡事故で、加害者が一方的かつ重大な過失により被害者を死亡させたにもかかわらず、事故後逃走を続け、逮捕後も完全黙秘し、刑事裁判でも被害者の速度違反が原因であるなどと述べ、被害弁償も全くなされず、謝罪の言葉すら述べられなかったことなどを考慮し、本人分慰謝料として3000万円の慰謝料が認められました。
② 東京地裁平成18年7月28日判決・交民39巻4号1099頁
19歳・女子大学生の女性が被害者となった死亡事故で、加害者が多量に飲酒し仮睡状態で事故を起こしたこと、救護措置を講じなかったこと、日常的に飲酒運転を行っていたこと、被害者の母が事故後抑うつ状態と診断されていること、次兄が事故を遠因として大学を退学したこと等を考慮し、本人分慰謝料として2500万円、固有慰謝料として父母について各200万円、兄二人について各100万円の合計3100万円の慰謝料が認められました。
次回は、「子供、幼児」の方が死亡されたケースについて具体的な事例をご紹介いたします。
弁護士 柳田 清史
「年金受給者の死亡逸失利益について」
今回は、「年金受給者の死亡逸失利益」をテーマに取り上げたいと思います。
高齢者で、年金受給者の方が死亡事故に遭われた場合、年金部分の逸失利益を請求することができますが、一般的な逸失利益の算定と異なる点があります。
① 就労可能性年数
一般に、逸失利益の就労可能年数の算定は、67歳を超える方の場合は、簡易生命表の平均余命の2分の1となりますが、年金の逸失利益を計算する場合には、平均余命が基礎となる点で違いがあります。
② 生活費控除率
年金は、生活費に費消される割合が高いと考えられていることから、生活費控除率が通常よりも高くなるのが原則です。ただし、年金受給者の方において他の所得があるケースなどにおいてはこの原則が妥当しないといえるケースがあります。
以上の点から、年金受給者の方が死亡事故に遭われた場合にも、逸失利益の算定が問題になるケースがあり、また、被害者の方に他の所得がある場合などは年金部分の逸失利益を増額できる可能性もあります。
弁護士 疋田 優
過失相殺と損益相殺はどっちが先?
前々回の私のコラム(「賠償額から控除されるものは何?」)では、損害賠償額から控除される様々な項目をご紹介しました。
今回は、事故に伴って労災保険や年金など何らかの給付を受けた場合に、仮に損益相殺という形で損害賠償額からその金額が控除されるとして、過失相殺された後の金額から控除されるのか、控除された後の金額から過失相殺されるのでしょうか。
第1に、労災保険に基づく給付については、過失相殺が先行し、過失相殺による減額後の残額から給付の金額を控除するというのが裁判所の考え方です(最判平成元年4月11日民集43巻4号209頁)。
第2に、健康保険や国民健康保険に基づく給付については、損益相殺が先行し、損益相殺がされた金額から過失相殺が行われるというのが実務上の取り扱いです(もっとも、最判平成17年6月2日民集59巻5号901頁は、事例判断ではあるものの、国民健康保険法に基づく葬祭費の給付よりも過失相殺を先行させています。この判決の後においては、見解が分かれているとの指摘もあり、現時点で確定的な最高裁判決はない状況です)。
第3に、国民年金、厚生年金、共済年金に基づく給付については、過失相殺を先行するか、損益相殺が先行するかについては、裁判例も分かれており、実務上の統一見解があるわけではありません(なお、東京地裁では、一般に、過失相殺を先行し、過失相殺をした後に控除する取り扱いとなっています)。
なぜ上記のような取り扱いになっているのかについては、また裁判例等の紹介をしたいと思います。
いずれにしても、過失相殺と損益相殺のどちらを先行させるかは、損害賠償額にも影響する重要な事項であり、給付の種類によっても議論のあるところです。裁判等の場で弁護士が適切に主張を行っていく必要のある問題であると言えるでしょう。
弁護士 田 保 雄 三
死亡事故と被害者参加制度
交通事故でご家族を亡くされたご遺族は、「被害者参加制度」により、裁判所の許可を得て、加害者(被告人)の刑罰を決める裁判(刑事裁判)に参加することができます(当サイトの「被害者参加制度」のページもご参照ください)。今回の私のコラムでは、「被害者参加制度」を取り上げます。
1 被害者参加制度の利用と援助
交通事故被害者のご遺族は、検察官を通じて、裁判所に対して加害者(被告人)の刑事裁判への参加を申し出て、裁判所の許可を得て、刑事裁判に出席することができます(刑事裁判に参加する被害者やご遺族は、「被害者参加人」と呼ばれます)。被害者参加人は、刑事裁判に参加する場合、弁護士に委託することができます。経済的に余裕がない方には、国が弁護士の費用を負担する「被害者参加人のための国選弁護制度」もあります(当弁護団では、ご遺族の被害者参加のサポートを無料で行っております)。また、被害者参加制度を利用して刑事裁判に参加された方には、国が旅費等を支給する「被害者参加旅費等支給制度」があります。
2 被害者参加人ができること
・被害者参加人は、傍聴席からではなく法廷内に座り、正に事件の当事者として刑事裁判の公判期日に出席することができます。
・例えば示談や遺族への謝罪の状況などのいわゆる一般情状に関する事項について、証人を尋問することができます。
・被告人に質問することができます。
・事実または法律適用に関する意見(例えば、「被告人を懲役○年にしてもらいたい」といった量刑に関する意見)を述べることができます。
当弁護団では、被害者参加のサポートを無料で行っております。交通事故で大切なご家族を亡くされ、被害者参加の制度の利用をご検討されている方は、ご気軽に当サイトにお問い合わせください。
弁護士 藏 田 貴 之
死亡慰謝料の増額(3)
今回は、「母親、配偶者」となる方が死亡されたケースの「死亡慰謝料の増額」をテーマに取り上げます。
なお、被害者が「母親、配偶者」である場合の死亡慰謝料の標準額は一般に2500万円とされています(死亡慰謝料の増額事由については、「死亡慰謝料の増額(1)」、「死亡慰謝料の増額(2)」も併せてご覧下さい。)。
① 横浜地裁平成21年2月6日判決・自保ジ1831号75頁
36歳・主婦の女性とその子である小学生2名(女児・12歳、男児・8歳)が被害者となった死亡事故で、高速道路での渋滞停止中に、加害者の運転する大型貨物車が時速50㎞制限のところをほぼ無制動のまま時速82㎞で追突したこと、残された夫は一瞬にして最愛の妻と子供2人を失ったことなどを考慮し、主婦本人分として2800万円、小学生2人本人分各2500万円、主婦の父母の固有慰謝料各200万円の合計8200万円の慰謝料が認められました。
② 東京地裁平成18年10月26日判決・交民39巻5号1492頁
43歳・主婦兼アルバイトの女性が被害者となった死亡事故で、加害者が多量に飲酒し正常な運転が困難な状態であったこと、仮眠状態に陥って事故を起こしたこと、運転動機の身勝手さ、被害者が3人の子の成長を見届けることなく命を奪われた無念さ等を考慮し、本人分として2700万円、夫と子3人の固有慰謝料として、夫につき200万円、子3人につき各100万円の合計3200万円の慰謝料が認められました。
③ 大阪地裁平成28年1月14日判決・交民49巻1号1頁
57歳・主婦兼アルバイトの女性が被害者となった死亡事故で、加害者が、酒気帯びで夜間にもかかわらず無灯火で走行したこと、制限速度を40㎞以上超過する時速約81㎞で走行していたこと、たばこの火を消すために灰皿に目を落とした前方不注視等を考慮し、本人分として2200万円、夫の固有慰謝料として300万円、子3人について各200万円の合計3100万円の慰謝料が認められました。
次回は、「独身の男女」の方が死亡されたケースについて具体的な事例をご紹介いたします。
弁護士 柳田 清史
「被害者が主夫である場合の死亡逸失利益」について
今回は、「被害者が主夫である場合の死亡逸失利益」をテーマに取り上げたいと思います。
家事従事者が死亡事故の被害に遭った場合には、死亡逸失利益(被害者が死亡しなければその後就労可能な期間において得られたであろう利益)を請求できます。交通事故の損害賠償において、家事従事者とされるのは主婦(女性)の方が多いですが、主夫(男性)の場合もあります。
例えば、裁判例の中には、被害者が男性(事故当時76歳)であり,事故の5年ほど前から,妻との二人暮らしの中で,家事労働を担当していた事案において、「平成25年賃金センサス年収額表に基づく女子学歴計70歳以上の年収額283万5200円を基礎収入とし,生活費控除率50%,稼働可能期間を76歳に対応する平均余命の約2分の1となる5年(括弧書省略)として以下の算式により算定される金額を,被害者の家事労働分の逸失利益として認めるのが相当である。」として、主夫の死亡による逸失利益を認めています(東京地裁平成28年10月26日判決)。
このように、個々の事案によっては、被害者となった男性が主夫として家事従事者であると評価されるケースもあります。もっとも、その立証が可能か否かという点は、事前の検討を十分に要するところであると思われます。
弁護士 疋田 優
遺族年金と損益相殺
前回の私のコラム(「賠償額から控除されるものは何?」)では、損害賠償額から控除される様々な項目をご紹介しました。
今回は、その中の一つである、「遺族年金」について解説したいと思います。
死亡事故によって被害者が亡くなった場合、被害者が国民年金や厚生年金に加入していた場合、遺族が遺族年金を受け取る場合があります。この場合、損害賠償額はどうなるのでしょうか。
遺族年金については、国民年金法による遺族基礎年金、厚生年金保険法による遺族厚生年金、国家(地方公務員)等共済組合法による遺族年金などがあります。
結論的には、判例上、いずれも損益相殺として損害賠償額から控除されています(最判平成11年10月22日民集53巻7号1211頁、最判平成16年12月20日裁判集民215号987頁、最大判平成5年3月24日民集47巻4号3039頁、最判昭和50年10月24日民集29巻9号1379頁など)。
では、なぜ遺族年金は損益相殺の対象となるのでしょうか。
この点、上に挙げた最判平成5年3月24日は、被害者の死亡により遺族がある債権を取得した場合に損益相殺的な調整が行われるのは、「当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実」と言える場合に限られるところ、遺族年金は、本人が死亡当時直接扶養していた者の生活の維持を目的とする給付であり、「その履行の不確実性を問題とすべき余地がない」ため、損益相殺の対象となると説明しています。ただし、支給が確定していない遺族年金については、「存続が確実」と言えないため、損益相殺の対象とならないとしています。
つまり、損益相殺として控除の対象となるのは、「支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度」ということになります。このように、遺族年金は損害額から控除されるといっても、「支給の確実性」という観点から、控除の対象は、「支給を受けることが確定した遺族年金の額」が限度となるので、注意が必要です。
どのような給付が賠償額から控除されてしまうのかについては、給付の種類によっても様々な問題がありますので、まずは弁護士にご相談ください。
弁護士 田 保 雄 三
交通事故の相手方が無保険だったらどうする?②
前回の私のコラム(2018年11月30日公開)では交通事故の相手方が前者の任意保険に未加入だった場合の対応のうち、特に治療費、慰謝料等の人身損害賠償の問題を中心に解説しました。今回のコラムでは、車の修理費など物損賠償の問題を中心に解説します。
前回のコラムでも説明しましたように、交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合、保険会社の「示談代行サービス」が使えません。また、修理費などの物損は、自賠責保険の支払いの対象外となります。そこで、以下のような対応をするほかありません。
(1)加害者と直接交渉する
まず、交通事故の相手方加害者に対し、修理費や代車料、レッカー費用等を支払うよう交渉するのが原則ですが、相手方被害者と直接交渉する場合、そもそも連絡がつかない、加害者が約束を守らないなど、様々な困難が予想されます。
(2)自身の任意保険を利用する
被害者ご自身が加入されている任意保険に車両保険が付帯されている場合には、車両保険を利用して修理費の補償を受けることもできますが、車両保険を利用すると、保険の等級が下がってしまい、支払う保険料が上昇してしまう可能性があります。また、任意保険には、事故や故障時のレッカー費用や代車費用を負担してくれる特約があり、この特約に加入していれば保険の範囲内で補償を受けることができる場合があります。ご自身の加入している保険会社や代理店にご相談されることをお勧めします。
このように交通事故の相手方加害者が任意保険に未加入の場合、修理費などの物損賠償の対応には大変な困難が予想されます。相手方が任意保険に未加入であることが判明した時点で、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士 藏 田 貴 之
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