コラム

死亡事故と内縁関係者による損害賠償請求

2020-09-30

 婚姻届を提出しておらず法律上の夫婦ではないが、事実上夫婦として共同生活を営んでおり夫婦の実態が認められる関係を内縁関係といいます。

 現在の相続法のルールでは、内縁関係にあった方が事故により亡くなられた場合、そのパートナーには相続権は認められていません。

 しかし、最高裁平成5年4月6日判決によれば、「内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその賠償を請求することができるものというべきである」とされており、内縁の配偶者が被害者の扶養を受けて生活していたような場合には、加害者に対する損害賠償請求が可能となります。

 お悩みの方は是非ご相談ください。

弁護士 柳田 清史

「好意同乗減額について②」

2020-09-14

さて、今回のコラムでは、前回私が担当したテーマに引き続き今回も「好意同乗減額」です。

前回、好意同乗減額が認められる典型的なケ-スとしては、運転者の飲酒を知りながら同乗したケースを紹介いたしました。

このほかにも、同乗者が運転手の過労又は睡眠不足を認識していた場合、運転者の無免許や運転技術が未熟な場合があります。例えば、事故当時、同乗者が運転手の「運転免許取得が約一か月半前であることを知っていた」こと、「雑談をしてほぼ徹夜の状態で時間を過ごした後の早朝の運転であるため、疲労運転の可能性が高いと知」っていたこと、及び事故当時「高速度で運転していたことを容易に知り得たのに、特に速度を落とすように言わず、ドライブを楽しんでいたこと」等の事実関係を前提として、好意同乗減額が認められております(大阪地裁平成7年6月22日判決)。

このほかにも好意同乗減額が問題となる類型があり、判断が悩ましい場合がありますので、その場合にはまずは弁護士にご相談下さい。

弁護士 疋田 優

養育費と逸失利益

2020-05-27

 

被害者が死亡した場合、存命であれば必要であった収入を得るための生活費の支出を免れることから、逸失利益を算定する際に、被害者本人の死亡後の生活費は控除されます。

もっとも、「支出を免れた生活費」と言っても色々あります。例えば、小さいお子さんが事故で亡くなった場合、その親はその子の養育にかかる費用の支出を免れています。

では、親が亡くなった子の損害賠償請求権を相続したとして加害者に逸失利益を請求する場合、支出を免れた養育費は、請求できる逸失利益から控除されるのでしょうか。

この点については、父母が支払いを免れた養育費は被害者本人の逸失利益から控除されないとするのが裁判所の考え方です(最判昭和39年6月24日民集18巻5号874頁、最判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁)。その理由は、支出を免れた養育費と、被害者である幼児が将来得ることができたであろう収入との間に、損益相殺の考え方に基づいて控除すべき同質性がないから、と説明されます。難しい表現ですが、要は、養育費の支出を免れるという消極的利益を得るのは、損害を受けた子供ではなく、養育費の支出を免れた父母であり、利益を受ける人が違うから、と考えればわかりやすいでしょう。

弁護士 田 保 雄 三

2020-04-24

新型コロナウイルス感染症と入通院(傷害)慰謝料

 

 新型コロナウイルスの感染症が世界中で蔓延し、私たちの日常生活全般に著しい影響が生じています。交通事故の被害に遭われて通院中の方々の中には、新型コロナウイルスへの感染予防のために、傷病の治療のための通院を控えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか(実際に、私個人にご依頼いただいている交通事故被害者の方々の中にも、通院したいけど感染が怖いので行けないという方が数多くいらっしゃいます)。今回の私のコラムでは、「新型コロナウイルス感染症と入通院(傷害)慰謝料への影響」をテーマにお話させていただきます。

・入通院慰謝料と算定方法

 まず、前提として、入通院(傷害)慰謝料とは、交通事故被害者が怪我をして入通院せざるを得なくなったことに対する精神的苦痛をお金に換算したもので、代表的な算定方法には、①自賠責基準と②裁判(弁護士基準)基準の2つがあります。

自賠責基準の入通院慰謝料は、「4,200円×実通院日数×2」(実通院日数×2が実通院日数を上回る場合には、総治療期間を限度とします)の計算式で算定されます。通院回数に応じて慰謝料の金額が決まる仕組みであり、保険会社からの提示金額は自賠責基準に基づき算定されるのが一般的です。

裁判基準(弁護士基準)の入通院慰謝料は、裁判実務で用いられる基準であり、総治療期間(実際に入通院した期間)を基準として算定され、自賠責基準よりも大きな金額となるのが一般的です。弁護士が保険会社と示談交渉する場合、裁判基準により算定した入通院慰謝料を請求します。

・新型コロナウイルス感染症の影響

 傷病の治療のために通院中の方が、新型コロナウイルスへの感染予防のために通院を控えた場合、通院回数が減少した分、上記①の自賠責基準で算定した入通院慰謝料の金額が減少してしまいます。また、通院できない期間が長期に及んだ場合、通院の必要が無いと判断されて、治療費の一括払いが打ち切られてしまう可能性もあります。これに対し、上記②の裁判基準(弁護士基準)で算定する場合には、原則として入通院慰謝料の金額に影響はありません。もちろん、通院回数が減少したことで、治療費一括払いの打切りの可能性はありますが、弁護士が介入して通院回数が減少した理由を合理的に説明すれば、打切りを回避できる場合もあります。

 このように弁護士が介入して示談交渉をすれば、新型コロナウイルス感染予防のために通院回数が減少したとしても、通院期間に応じて適正な入通院(傷害)慰謝料を受け取ることができる可能性が高くなります(当弁護団にお問い合わせいただければ、適切な助言をさせていただきます)。

 最後になりましたが、一日も早い新型コロナウイルス感染症の終息と、皆さまのご健康を心よりお祈り申し上げます。

弁護士 藏 田 貴 之

死亡慰謝料の増額(6)

2020-03-03

 今回は、「高齢者」の方が死亡されたケースについて、いくつかの事例を紹介したいと思います。

 なお、被害者が「高齢者」である場合の死亡慰謝料の標準額は一般に2000万円~2500万円とされています。

 

① 東京地裁平成22年5月12日判決・交民43巻3号568頁

 71歳の女性が被害者となった死亡事故で、加害者が貨物自動車を被害者に衝突させて車底部に被害者を巻込み、人に車をぶつけたかもしれないと考えながらも約30m走行してから停車し、さらに十分な確認をしないまま120m引き摺ったという事案において、2800万円の慰謝料が認められました。

 

② 名古屋地裁平成22年2月5日判決・交民43巻1号106頁

 69歳・年金生活者の男性が被害者となった死亡事故で、加害者が著しい前方不注視で事故を起こした上現場から逃走し、破損したナンバープレートを破棄するなどの証拠隠滅行為を行い、刑事で実刑判決を受けて服役し出所後も損害賠償に応じる姿勢を見せなかったという事案において、行為や態度の悪質性を考慮して、本人分として2200万円、妻分として400万円、子3人について各100万円の合計2900万円の慰謝料が認められました。

 

弁護士 柳田 清史

好意同乗減額について

2020-02-04

 さて、今回のテーマは、「好意同乗減額」です。

 好意同乗減額とは、事故車の同乗者が、過失のある運転者の車に自らの意思で同乗していた場合に、同乗の経緯や態様に応じて、公平の観点から同乗者に対する賠償額を減額する考え方をいいます。

 裁判実務において、好意同乗減額が認められるのは、事故発生の危険が極めて高いような客観的事情の存在を知りながらあえて同乗した事情がある場合、あるいは、同乗者において事故発生の危険が増大するような状況を作り出したなどの非難すべき事情がある場合に限られています。単に過失のある運転者の車に自らの意思で同乗していた場合にこの好意同乗減額が認められるわけではありません。

 好意同乗減額が認められる典型的なケ-スとしては、運転者の飲酒を知りながら同乗したケースです。この場合には運転者の飲酒運転の事情が事故の発生に影響を与えていないことが認められない限り、ほぼ減額が認められています。

 このほかにも好意同乗減額が認められる類型がありますので、この続きは次回のコラムで述べさせていただきます。

弁護士 疋田 優

被害者側の過失

2019-12-31

 交通事故に基づく損害賠償請求を行う際、被害者の過失について過失相殺がされるか否かは、重要な争点の一つです。

 そして、裁判実務上、厳密に被害者自身ではない人の過失についても、被害者「側」の過失として、過失相殺の対象とされることがあります。

 具体的には、判例上、「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」の過失については、被害者「側」の過失として考慮される旨判示されています。

 例えば、以下の様な事例で被害者側の過失が認められています。

①夫が運転する車に同乗中の妻について、夫の過失を被害者側の過失として考慮したケース(最判昭和51年3月25日民集30巻2号160頁)

②内縁の夫が運転する車に同乗中の女性について、内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮するとしたケース(最判平成19年4月24日裁判集民224号261頁)

 「身分上ないしは生活関係上一体とみられるような関係にある者」の判断は、難しい問題です。

 まずは弁護士にご相談をいただくことをお勧めします。

弁護士 田 保 雄 三

交通事故と休業損害②

2019-11-25

 前回の私のコラム「休業損害①」では、交通事故により怪我をしてしまって仕事を休んだ場合の休業損害について解説しました。今回は、特にサラリーマン(給与所得者)の方の休業損害を取り上げます。前回のコラムで説明しましたように休業損害は「収入日額×休業日数」の計算式で算定されます。特にサラリーマン(給与所得者)の方の休業損害は、以下の方法で算定されるのが一般的です。

・収入日額

 事故前の3ヶ月(90日)に支払われた給与の合計額を、90日(もしくは実際の稼働日数)で割り、収入日額を計算します。3ヶ月間の給与は、基本給に加えて各種手当などを加算したいわゆる額面額の合計額です。

・休業日数

 現実の休業日数のうち、「交通事故の傷病が原因となって休業が必要な日数」に限定されます。有給休暇を利用した場合も休業日数に含めることができます。

・証明方法

 事故前の給与額と休業日数は、会社に「休業損害証明書」(書式)を作成してもらい、証明する方法が一般的です。収入を証明する資料の収集できない場合には、「賃金センサス」という厚生労働省が調査した平均賃金額によって計算することもあります。

 死亡事故の場合でも、交通事故の発生から被害者の方がお亡くなりになるまでの期間に休業した日数については、休業損害の対象となる可能性があります。休業損害について、保険会社の対応に疑問を感じる方は、弁護士にご相談されることをお勧めします。

弁護士 藏 田 貴 之

死亡慰謝料の増額(5)

2019-10-30

 今回は、「子供・幼児」が死亡されたケースの「死亡慰謝料の増額」をテーマに取り上げます。

 なお、被害者が「子供・幼児」である場合の死亡慰謝料の標準額は一般に2000万円~2500万円とされています(死亡慰謝料の増額事由については、「死亡慰謝料の増額(1)~(4)」も併せてご覧下さい。)。

 

① 大阪地裁平成20年9月26日判決・自保ジ1784・15頁

 片側1車線の路側帯を歩行中の9歳・男子が加害者に後方から追突された死亡事故で、加害者が朝まで飲酒し、事故後救護・報告を行わずひき逃げを行ったばかりか、強力な口臭消しを購入し、また衝突まで全く被害者に気が付いていなかったにもかかわらず捜査段階ではこれを隠す虚偽の供述をし、さらに被害者本人の年齢に照らせば、前途無限の可能性があったにもかかわらずその夢を絶たれたものといえ、父母も事故後心療内科に通院したことから、基準額の3割増しを相当とし、本人分慰謝料として2750万円、及び父母それぞれに250万円合計3250万円の慰謝料が認められました。

 

② 横浜地裁平成23年10月18日判決・判時2131号86頁

 14歳・の男子中学生が被害者となった死亡事故で、加害者が、過去にも医師の指示に背いて抗てんかん薬を服用せずに物損事故を起こしていたこと、その後も抗てんかん薬の服用を日常的に怠っていたことから、一時的に注意を怠ったというものでは到底なく、重大かつ悪質なもので、強い非難に値するとされ、また刑事事件の公判や遺族を訪問した際に薬を服用していた旨虚偽の供述をしていたこと等を考慮し、本人分慰謝料として2600万円、固有慰謝料として父母について各400万円合計3400万円の慰謝料が認められました。

 

 次回は、「高齢者」の方が死亡されたケースについて具体的な事例をご紹介いたします。

弁護士 柳田 清史

死亡事故被害者の祖父母・孫は固有の慰謝料を請求できるか?

2019-10-02

 法律上、相続人であるか否かにかかわらず、死亡事故の被害者の父母、配偶者、子に対し、加害者に対する固有の慰謝料請求権が認められています(民法711条)。他方、被害者の祖父母や孫は、この民法711条には明記されていません。では、固有の慰謝料請求をすることはできないのでしょうか。

 最高裁判例では、民法711条所定の者(被害者の父母、配偶者、子)と実質的に同視しうべき身分関係にあり、その者が甚大な精神席苦痛を受けた場合、固有の慰謝料請求が認められると判断しており、被害者の祖父母や孫にも固有の慰謝料請求が認められる場合があります。

 近似の裁判例では、被害者と孫らが同居しており、孫が母親と死別したため被害者が養育した経緯が存在し、また、孫の一人が障害者であったため被害者が介護していた者に対する固有の慰謝料を認めたものがあります(大阪地裁平成22年2月9日)。

 もっとも、死亡事故における祖父母・孫については、同居の有無だけでなく、同居中の生活関係の実態も詳細に検討されているため、否定例も相当数ありますので、請求を検討される場合には弁護士に一度ご相談下さい。

弁護士 疋田 優

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