被害者が死亡した場合、存命であれば必要であった収入を得るための生活費の支出を免れることから、逸失利益を算定する際に、被害者本人の死亡後の生活費は控除されます。
もっとも、「支出を免れた生活費」と言っても色々あります。例えば、小さいお子さんが事故で亡くなった場合、その親はその子の養育にかかる費用の支出を免れています。
では、親が亡くなった子の損害賠償請求権を相続したとして加害者に逸失利益を請求する場合、支出を免れた養育費は、請求できる逸失利益から控除されるのでしょうか。
この点については、父母が支払いを免れた養育費は被害者本人の逸失利益から控除されないとするのが裁判所の考え方です(最判昭和39年6月24日民集18巻5号874頁、最判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁)。その理由は、支出を免れた養育費と、被害者である幼児が将来得ることができたであろう収入との間に、損益相殺の考え方に基づいて控除すべき同質性がないから、と説明されます。難しい表現ですが、要は、養育費の支出を免れるという消極的利益を得るのは、損害を受けた子供ではなく、養育費の支出を免れた父母であり、利益を受ける人が違うから、と考えればわかりやすいでしょう。
弁護士 田 保 雄 三