過失相殺と損益相殺はどっちが先?

前々回の私のコラム(「賠償額から控除されるものは何?」)では、損害賠償額から控除される様々な項目をご紹介しました。

今回は、事故に伴って労災保険や年金など何らかの給付を受けた場合に、仮に損益相殺という形で損害賠償額からその金額が控除されるとして、過失相殺された後の金額から控除されるのか、控除された後の金額から過失相殺されるのでしょうか。

第1に、労災保険に基づく給付については、過失相殺が先行し、過失相殺による減額後の残額から給付の金額を控除するというのが裁判所の考え方です(最判平成元年4月11日民集43巻4号209頁)。

第2に、健康保険や国民健康保険に基づく給付については、損益相殺が先行し、損益相殺がされた金額から過失相殺が行われるというのが実務上の取り扱いです(もっとも、最判平成17年6月2日民集59巻5号901頁は、事例判断ではあるものの、国民健康保険法に基づく葬祭費の給付よりも過失相殺を先行させています。この判決の後においては、見解が分かれているとの指摘もあり、現時点で確定的な最高裁判決はない状況です)。

第3に、国民年金、厚生年金、共済年金に基づく給付については、過失相殺を先行するか、損益相殺が先行するかについては、裁判例も分かれており、実務上の統一見解があるわけではありません(なお、東京地裁では、一般に、過失相殺を先行し、過失相殺をした後に控除する取り扱いとなっています)。

なぜ上記のような取り扱いになっているのかについては、また裁判例等の紹介をしたいと思います。

いずれにしても、過失相殺と損益相殺のどちらを先行させるかは、損害賠償額にも影響する重要な事項であり、給付の種類によっても議論のあるところです。裁判等の場で弁護士が適切に主張を行っていく必要のある問題であると言えるでしょう。

弁護士 田 保 雄 三

 

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