来年平成30年は、団塊の世代の大半が70代となり、「超高齢化社会」が到来すると言われています。高齢者の方が死亡事故の被害者となるケースは今後増える可能性があるといえるでしょう。そこで、今回は高齢者の死亡事故に特有の問題を取り上げたいと思います。
高齢者の特徴としては、事故とは無関係に病気を抱えている場合があることが挙げられます。このような方が交通事故に遭った後、事故による傷病とは別の傷病名で死亡した場合、死亡と事故との間に因果関係があるのか、すなわち加害者に死亡の責任まで問えるのかが問題となります。
この点に関する裁判例は複数ありますが、今回はそのうちの一つ(神戸地方裁判所平成10年1月30日判決の事案)をご紹介したいと思います。
本件被害者は事故当時71歳で、糖尿病、慢性膵炎、腰椎圧迫骨折、白内障、肺結核、肺気腫などを患っていたほか、うつ病などで向精神薬を内服しておられました。
そのような中、本件事故により頭部外傷二型、腰部挫傷などの傷害を負い、一旦退院したものの、事故から約5か月後には腰痛やしびれが悪化し、気力低下も著しくなり、事故後7か月後に倒れ、最終的に入院先の病院で肺炎で亡くなったという事案です。
この事案について裁判所は以下のように判示しました。
「(被害者は)交通外傷受傷が精神的要素の悪化を介し、さらに、身体的機能の障害を介して、活動性低下をもたらすことによって、肺炎発症をもたらしたもので、肺炎を直接の死因として死亡したとしても、これらは、通常人において予見することが可能な事態というべきであるから、被害者の肺炎発症と本件事故との間、更には被害者の死亡と本件事故との間には、いずれも相当因果関係があるというべきである」
そして、その上で、既往症等の存在から損害額の6割を減額するとしました。
本件では、一見すると事故から死亡までは時間も経っており、因果関係が乏しいとも思えるかもしれません。しかし、裁判所は、因果関係自体は認め、過失相殺の考え方を応用して減額をする、という処理を行っているようです(本件以外にも死亡との因果関係を認めた事案として、大阪地方裁判所平成8年1月25日判決、神戸地方裁判所平成10年9月3日判決、神戸地方裁判所平成14年2月14日判決など)。
もっとも、因果関係の判断は法的評価を伴う難しい問題ですし、裁判例も分かれているところです。
因果関係がないのではないかと思われる事案でも因果関係が認められる事案もあります。
どうせ無理だと思ってあきらめるのではなく、まずは弁護士にご相談いただくのが良いでしょう。
弁護士 田保 雄三