警察庁の分析によると,平成28年の飲酒運転による死亡事故は213件,死者は221人に上り,飲酒運転による死亡事故発生率は飲酒運転以外が原因の事故と比較し8倍以上という数字となっていることをご存じでしょうか。つまり,飲酒運転は,極めて死亡事故に結びつきやすい悪質な行為であると言えます。このような飲酒運転による事故が起きた場合,被害者側・加害者側にとってどのような影響があるのでしょうか。
①過失割合が加害者側に加算される
交通事故では,全面的に加害者側に過失があれば過失割合は10対0です。しかし,被害者側にも信号無視等の事情があれば,被害者側の過失も考慮して,加害者側の責任が決まります。飲酒運転の場合,過失割合を決めるに当たり,酒気帯びなら1割,酒酔い運転なら2割,加害者側に過失f割合が加算されるのが一般的です。このように,飲酒運転かどうかは,過失割合・損害賠償額に大きく影響するものと言えます。
②加害者側は自動車保険・車両保険が使えない
交通事故では,加害者が飲酒運転の場合も,被害者に対しては,自賠責保険や任意保険(対人賠償保険)から損害補償金が支払われます。
しかし,加害者に対しては,飲酒という重大な過失があるため,加害者自身が事故で大けがを負っていても,多くのケースで保険金が支払われません(人身傷害補償保険,自損事故傷保険などについても免責事項です)。また,飲酒運転の場合,健康保険も使えないため,治療費は全額負担となります。
さらに,事故で自分の車が破損した場合,通常は修理のために車両保険が使えます。しかし,飲酒運転の場合には,車両保険は免責事項とされており,使えません。加害者自身の車の修理は自腹なのです。
③加害者は勤務先を解雇になる可能性がある
近年の飲酒運転取り締まりの必要性が叫ばれている中,酒酔い運転を理由とした懲戒解雇をする企業・自治体が増えています。飲酒運転の結果被害者が傷害を負ったり被害者が死亡した場合,加害者は勤務先を解雇になる可能性もあるのです。
④重い刑事罰
飲酒運転で人身事故を起こした場合,過失運転致死傷罪(必要な注意を怠って人を死傷させた人身事故の場合)や危険運転致死傷罪(アルコールの影響が大きい酩酊運転で人身事故を起こした場合)として処罰を受ける場合があります。
前者は7年以下の懲役または禁錮/100万円以下の罰金,後者は,負傷では15年以下の懲役,死亡では1年以上の有期懲役と,非常に重い罪が課されます。
このように,飲酒運転により事故が起きた場合,加害者はおのずと一定の社会的制裁を受けることになると言えます。しかし,飲酒運転によって被害者側が重大な障害や後遺症を負ったり死亡してしまった場合,いくら加害者が社会的制裁を受けたとしても,亡くなってしまった命や健康な体は戻ってきません。適正な金額の賠償を受けることが,被害者・ご遺族にとってのせめてもの救済と言えるでしょう。そのために,我々弁護士がいるのだと思います。
弁護士 田保雄三