遺族年金と損益相殺

前回の私のコラム(「賠償額から控除されるものは何?」)では、損害賠償額から控除される様々な項目をご紹介しました。

今回は、その中の一つである、「遺族年金」について解説したいと思います。

死亡事故によって被害者が亡くなった場合、被害者が国民年金や厚生年金に加入していた場合、遺族が遺族年金を受け取る場合があります。この場合、損害賠償額はどうなるのでしょうか。

遺族年金については、国民年金法による遺族基礎年金、厚生年金保険法による遺族厚生年金、国家(地方公務員)等共済組合法による遺族年金などがあります。

結論的には、判例上、いずれも損益相殺として損害賠償額から控除されています(最判平成11年10月22日民集53巻7号1211頁、最判平成16年12月20日裁判集民215号987頁、最大判平成5年3月24日民集47巻4号3039頁、最判昭和50年10月24日民集29巻9号1379頁など)。

では、なぜ遺族年金は損益相殺の対象となるのでしょうか。

この点、上に挙げた最判平成5年3月24日は、被害者の死亡により遺族がある債権を取得した場合に損益相殺的な調整が行われるのは、「当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実」と言える場合に限られるところ、遺族年金は、本人が死亡当時直接扶養していた者の生活の維持を目的とする給付であり、「その履行の不確実性を問題とすべき余地がない」ため、損益相殺の対象となると説明しています。ただし、支給が確定していない遺族年金については、「存続が確実」と言えないため、損益相殺の対象とならないとしています。

つまり、損益相殺として控除の対象となるのは、「支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度」ということになります。このように、遺族年金は損害額から控除されるといっても、「支給の確実性」という観点から、控除の対象は、「支給を受けることが確定した遺族年金の額」が限度となるので、注意が必要です。

どのような給付が賠償額から控除されてしまうのかについては、給付の種類によっても様々な問題がありますので、まずは弁護士にご相談ください。

弁護士 田 保 雄 三

 

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