交通事故の被害者が死亡した場合、被害者の相続人が被害者の損害賠償請求権を相続します。また、被害者の近親者は、遺族固有の慰謝料を請求できる場合があります。このことは、当サイトの「死亡事故と相続人について」でも説明させていただきました。
このうち、遺族固有の慰謝料の金額については、一般的には金額に差が付けられないことが多いですが、裁判例の中には、一人の相続人(孫)に特に高額の固有の慰謝料請求権を認めたものもあります。
今回はその裁判例(大阪地判平成22年2月9日交民43巻1号140頁)をご紹介したいと思います。
本件は、加害者の車が、横断歩道を横断していた当時75歳の専業主婦である被害者Aさんに衝突して死亡させたため、相続人らが訴訟提起したという事案です。
被害者の相続人は、被害者の子X1・X2と孫X3・X4でした。
裁判所は、Xら固有の慰謝料は各50万円が相当としましたが、X4だけについては300万円が相当との判断を下しました。
X4は、第1種知的障害の認定を受け、会話による意思疎通がほぼ不可能なうえ、常時介護が必要な状態にあり、被害者Aが世話をしながら作業所への送り迎えをする、という生活を送っていました。裁判所は、このような事情を考慮し、本件事故によって従前の生活が送れなくなり、施設への入所を余儀なくされたことを理由として、X4にだけ300万円という高額の固有慰謝料を認めました。
本件は特殊事情があった事案とも言えますが、事情によっては遺族固有の慰謝料をより高額にできる可能性もあります。
示談する前に、どの親族がどの程度固有の慰謝料請求の余地があるか、弁護士にご相談されることをおすすめします。
弁護士 田 保 雄 三