今年も残すところわずかとなってきました。
さて、今年の6月2日に公布された「民法の一部を改正する法律」によって、民法の一部が改正されたことはご存知の方も多いと思います。なお、この改正民法は、平成32年4月1日より施行されることになっています。
そこで、今年最後のコラムは、「民法改正による交通事故の消滅時効に関する影響」をテーマに取り上げたいと思います。
現行法(現時点ではまだ改正法が施行されていないため、改正前の民法が適用されます。)は、不法行為に基づく損害賠償請求権について、損害及び加害者を知った時から3年間行使をしないときは、時効によって消滅する、不法行為の時から20年を経過したときも同様とする、と規定されています。
他方で、改正民法では、原則的な不法行為に基づく損害賠償請求権についての時効期間には変更はありませんが、生命・身体の侵害による損害賠償請求権(死亡事故・人身事故のケース)は、特例として、損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときは時効によって消滅すると改められ、時効期間が延長されることになりました。このような改正がなされた理由としては、生命・身体は他の財産権等の権利と比較して特に保護すべき必要性が高い権利であるということなどがあげられます。
そのため、交通事故では、死亡事故・人身事故の損害賠償請求権の消滅時効は損害及び加害者を知った時から5年間に伸長されることになります。他方、物損事故の場合、つまり自動車の修理費等の損害賠償請求権は、これまでどおり損害及び加害者を知った時から3年間のままです。
なお、現時点ではまだ改正法が施行されていないため、改正民法について適用を受けるのは平成32年4月1日以降に発生した債権になるのが原則です。ただし、不法行為に基づく生命身体の侵害による損害賠償請求権(交通事故では死亡事故・人身事故のケース)については、法律が施行される時点において消滅時効が完成していない場合には、改正民法が適用されるため、3年から5年に消滅時効が延長されることになります。
もっとも、時効期間が伸長されるからといえ、消滅時効の制度がある限り、死亡事故のご遺族が、時効により賠償を受けられる権利が消滅してしまうというリスクは残りますので、なるべく早期に対応していくことが大切であることには変わりはないといえます。
弁護士 疋田 優