死亡事故と労災保険(1)

 業務中(例えば営業先へ移動中など)あるいは通勤・帰宅中に交通事故に遭い死亡してしまったような場合、労働災害(労災)と認定され、遺族が保険給付を受けられることがあります。加害者のある死亡事故であれば、加害者の加入する自賠責保険や任意保険会社から保険金を受け取ることもできますが、万一加害者がそれらの保険に加入していなかった場合などにおいては、労災給付の受給は損害填補を受けるための重要な方法の一つとなります。そこで、今回は、遺族が受けることのできる労災給付の概要についてお話ししたいと思います。

【労災保険給付の種類】

 遺族が受け取ることができる労災保険給付は、大きく分けて「遺族補償給付」と「葬祭料(給付)」の二つがあります。

 まず、「遺族補償給付」には、「遺族補償年金」と「遺族補償一時金」の2種類があります。原則として「遺族補償年金」が支給されることになっていますが、遺族補償年金を受けることができる(条件に該当する)遺族が全くいない場合等に、「遺族補償一時金」が支給されます。

 「葬祭料」は、文字通り葬祭に要する費用として支払われるものです。

 

【誰がもらえる??(受給資格者)】

 まず、「遺族補償年金」を受け取ることができる人は、労働者の死亡当時その収入によって生活を維持していた配偶者・子供・孫・祖父母・兄弟姉妹とされています。もっとも、受給資格には順番があり、また妻以外の遺族については、労働者の死亡時における年齢での制限や、一定の障害(障害等級第5級以上)があることが要件となっているので注意が必要です。受給資格が認められる順番は以下のとおりです。

  ①妻又は60歳以上若しくは一定の障害がある夫
  ②18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子又は一定障害の子
  ③60歳以上又は一定障害の父母
  ④18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子又は一定障害の孫
  ⑤60歳以上又は一定障害の祖父母
  ⑥18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある兄弟姉妹
     若しくは60歳以上又は一定障害の兄弟姉妹
  ⑦55歳以上60歳未満の夫
  ⑧55歳以上60歳未満の父母
  ⑨55歳以上60歳未満の祖父母
  ⑩55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

 上記の受給資格に該当しない場合は、「遺族補償一時金」が支給され、①配偶者、②労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子、父母、孫及び祖父母、③その他の子、父母、孫及び祖父母、④兄弟姉妹の順に受給資格が認められます。

 

【給付はいくらもらえる??】

 遺族補償年金の支給額は、受給資格者に該当する遺族の数に応じて決定されます。

 内訳としては、遺族補償年金、遺族特別年金、遺族特別支給金(一時金)の3種類があり、遺族特別支給金は300万円で定額とされています。

 遺族補償年金は給付基礎日額(事故日の直近3ヶ月間に支払われた給料総額をベースに1日あたりの賃金を算定したもの)の何日分という形で、遺族の数に応じた日数分(例えば、遺族が1人であれば153日分、2人であれば201日分等)が支給されます。ここで注意が必要なのは、未払残業代が発生している場合、「直近3ヶ月の給与」には同残業代も含まれるのですが、労災申請を行う際に会社からこの点が指摘されることはあり得ないため、遺族側からこの点を指摘して給付基礎日額に反映してもらわなければなりません。

 遺族特別年金は、算定基礎日額(死亡の原因である事故が発生した日以前1年間に受けた特別給与(いわゆるボーナス)の総額を365日で割って得た額)の遺族に応じた日数分が支払われます。

 なお、遺族補償年金の受給資格者がいない場合の遺族補償一時金の支給額は、遺族補償一時金として給付基礎日額の1000日分、遺族特別支給金として300万円、遺族特別一時金として算定基礎日額の1000日分が支給されます。

 次に葬祭給付ですが、これは、遺族が葬祭を行った場合は遺族に対し、又は会社において社葬を行った場合は会社に対して支給されます。給付を受けることができる葬祭費用の額は、315,000円に上記の給付基礎日額の30日分を加えた額とされています。

 

 以上、今回は労災保険給付の概要を簡単にご説明しました。また、別の回においてもう少し踏み込んだお話もさせていただきたいと考えております。

 労災保険給付も含め、様々な保険給付が競合する場合には、それらをどのように調整すべきか、どの保険から先に保険金を受領するのがよいのか、損益相殺の対象となるのはどの保険給付かといった点を検討する必要が生じます(損益相殺の関係については「死亡事故Q&A」にも記載がありますのでご参照下さい。)。もっとも、その検討は非常に複雑であり、またケースによって対応も変わり得るものですので、判断に迷われることもあろうかと存じますが、そのような場合は一度専門家に相談して検討されるのが望ましいかと思います。当弁護団にもお気軽にお尋ね下さい。

弁護士 柳田 清史

 

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