前回に引き続き、今回は、個人事業主・事業所得者(以下、単に「事業所得者」といいます。)の死亡逸失利益を取り上げたいと思います。
事業所得者の場合も、死亡逸失利益の算定方法自体は一般的な場合と同様です(「死亡事故の損害賠償の種類」(2)消極損害もご参照下さい。)が、基礎収入の算定については、原則として事故の前年度の確定申告所得額(青色申告の場合は、青色申告控除前の所得額)によって認定されます。もっとも、ケースによっては、申告をされていない場合や、申告額が実際の所得よりも低額である場合などがありますが、このような場合に、逸失利益はどのように算定されるのでしょうか。
① 無申告の場合
この場合でも、実際の収入状況が立証できれば、現実の収入が基礎収入として認められますが、その立証が難しい場合は少なくありません。そのような場合でも、事業の実態があり、相当の収入があったと認められる場合には、賃金センサスなどが参考にされて基礎収入が認められる場合があります。
② 申告外所得がある場合
この場合も実際に申告外所得の存在が立証されれば、基礎収入として認められますが、税務署へ申告している所得と矛盾する所得の存在を主張することとなるため、その認定は非常に厳格に行われます。申告をしている収入や諸経費と実際のそれらが異なることについて、会計帳簿等の信用性の高い証拠によって、高度な立証が求められるため、実際に認定を受けることも難しい場合が多いと言えます。
もっとも、極端に申告所得が少なかったり、赤字申告をしている場合で、その所得では明らかに生活水準が維持できないと考えられる場合や、開業・転業後間もない時期である場合、過去の収益が赤字であっても将来給与所得者への転職が予想されるなど相当の収入が得られる蓋然性が認められる場合などは、賃金センサス等を参考に一定の基礎収入が認められる場合があります。
以上のとおり、事業所得者の逸失利益についても、人により様々な事情があることから、どのように基礎収入が認定されるかによって、賠償額が大きく変わってくる可能性があります。また、事業収益に家族の寄与がある場合や、職種によっては異なる特別の事情を考慮しなければならない場合もあります。
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弁護士 柳田 清史