交通事故に遭ったものの、加害者が保険に未加入の場合があります。
自動車保険には、①任意保険と②自賠責保険がありますが、今回の私のコラムでは交通事故の相手方が前者の任意保険に未加入だった場合の対応のうち、特に治療費、慰謝料等の人身損害賠償の問題を中心に解説します。
損害保険料率算出機構が実施した調査によると、任意保険の対人対物賠償責任保険に加入している車両の割合は約70%であり、世の中の約3割の車両は任意保険未加入というデータがあるようです(もちろんまったく使用されていない車両もあるため、実際に公道を走っている任意保険未加入の車両の割合はもっと少ないと推測されます)。交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合、保険会社の「示談代行サービス」が使えません。特に、交通事故でけがをした被害者としては、次のような対応が考えられます。
(1)加害者と直接交渉する
まず、交通事故の加害者に対し、直接治療費や慰謝料を支払うよう交渉するのが原則です。しかしながら、相手方被害者と直接交渉する場合、そもそも連絡がつかない、慰謝料の計算の方法がわからない、加害者が約束を守らないなど、様々な問題が予想されます。
(2)被害者自身が加入する任意保険の特約を利用する
相手方加害者が治療費や慰謝料等の支払いに応じない場合、被害者自身が加入する任意保険を利用する方法があります。例えば、人身傷害保険に加入していると、被害者自身が加入する保険会社から治療費、交通費、慰謝料等の保険金の支払いを受けることができます。また、搭乗者傷害保険も同様に、被害者自身が加入保険会社から保険金が支払われます。もっとも、これらの保険金は損害の全額を補填するものではなく、不足する部分については、加害者本人に直接請求するほかありません。
(3)加害者の自賠責保険に被害者請求する
被害者自身が加入する保険から保険金が支払われない場合、被害者としては、加害者の自賠責保険に対し、「被害者請求」という方法により治療費、慰謝料等の保険金することができます。また、事故の後遺症が残った場合にも、被害者請求により後遺障害の等級認定を受ければ、保険金を受領することが可能です。もっとも、被害者請求の手続には多くの書類を準備する必要があり、非常に煩雑です。また、自賠責保険から支払われる保険金は、損害の全額を補填するものではなく、不足する部分については、加害者本人に直接請求するほかありません。
以上に加えて、車両の修理費などの物損賠償の問題も考えられます(この点は次回以降のコラムで取り上げる予定です)。このように交通事故の相手方が任意保険に未加入の場合、けがをした被害者は、対応に大変な苦労をされることが予想されます。相手方が任意保険に未加入であることが判明した時点で、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士 藏 田 貴 之