さて、私が担当したコラムでは、これまで3回にわたり民法改正をテーマに取り上げましたが、今回も、「相殺に関する民法改正が交通事故損害賠償実務に与える影響」という民法改正に関連したテーマに取り上げたいと思います。
現行民法では、不法行為によって発生した債権を受働債権(相殺の意思表示をする者の債務)とする相殺は一律に禁止されていました(現行民法509条)。
これに対して、改正民法では、【①悪意による不法行為に基づく債務】と【②人の生命・身体の侵害による損害賠償債務】を受働債権とする以外は、不法行為による損害賠償請求であったとしても、受働債権として相殺することを認めています(改正民法509条)。
この民法改正によって、交通事故実務において、人身損害の事故の場合は、改正前と特段異なってくるところはないかと思われます。他方で、物損事故で、双方に過失が生じる事故の場合には、これまでの現行民法では、和解、示談等で相殺の合意がある場合を除いて、一方当事者からの相殺の主張は許されませんでしたが、改正民法においては、このような場合にも一方当事者からの相殺の主張が許されることになります。なお、この物損事故で、双方に過失が生じる事故の場合に相殺が可能であると考えた場合には、任意保険会社との関係で相殺後の処理が問題となり得ますが、これは別の機会で述べたいと思います。
弁護士費用特約の普及により、少額の物損も紛争化傾向が顕著である昨今の状況に鑑みると、この改正民法が交通事故損害賠償実務に与える影響は小さくはないものと思われます。
弁護士 疋田 優